マナー違反のクライミングが環境に悪影響を与える?クリーンに楽しむ方法とは

環境問題

自然の中の岩壁や、室内の人工壁を登るスポーツ「クライミング」。
日本でも数年前からクライミングの一種である「ボルダリング」がブームとなっていましたが、2021年に開催された東京オリンピックで新競技にスポーツクライミングが追加されてからは、世界中でより一層注目が集まっています。

しかし人気が高まるにつれて、マナーを守らずに自然の中でロッククライミング(フリークライミング)を行う人も増えており、この状況が続くと、元来の景観や生態系が脅かされてしまうのではないかとの指摘が挙がっています。

今回は、マナーの悪いクライミングが自然環境に及ぼす影響とは一体何なのかについて解説していきます。

マナー違反なクライミングが景観に与える影響

クライミングスポットに残されたチョーク跡

クライミングを行う場合、一般的には岩を掴みやすくするための滑り止めとして、手のひらにクライミング用チョークをつけます。
チョークを使ってクライミングを行った後は、岩に付着したチョークを落としてからその場を去るのがマナーです。

しかし、クライミングが世界的なブームとなっている昨今では、そのマナーを守らずにクライミングを行う人が続出しており、今では世界中のクライミングスポットにチョーク跡が残されたままとなっています。

アメリカでは特にこの問題が深刻化しており、チョークの使用を制限もしくは禁止にする場所も増えつつあります。
たとえば、コロラド州のガーデン・オブ・ザ・ゴッズ国立自然ランドマークでは、チョーク類の使用が一切禁止となっています。
一方、ユタ州のアーチーズ国立公園では、クライミングする岩場の岩に近い色のチョークのみ使用が許可されています。

またチョークの消し忘れは景観を損なうだけでなく、場合によってはその岩場が持つ宗教的な意味を侮辱する行為にもあたります。
実際、アメリカ先住民の人々は彼らにとって神聖な場所を守るべく、「我々が管理する地域にクライマーが立ち入ることを禁ずる」と宣言しています。

岩場に打ち込まれたままの金具

屋外で険しい岩壁を登るクライミングには、ルートを開拓した先駆者が残したアンカー(支点)と呼ばれる金具(くさび)に命綱を括り付けながら登る「ロープクライミング(リードクライミング)」というものがあります。
アンカーが残されている岩場はクライミングスポットとして事前に指定されている場所となっているため、クライマーが登りながらアンカーを岩に打ち込むことは原則的にありません。

しかし、近年のボルダリングブームの流れで「外でも登ってみたい」とロープクライミングに挑戦する人が増えたことによって、基本的なルールやマナーを調べることなく観光地の岩場にアンカーを打ち込んでしまうケースが多発しています。

これは日本国内でも問題となっており、2016年には石川県白山市の「百万貫の岩」、岐阜県御嵩町の「鬼岩」、長野県飯田市の「天竜峡」などの天然記念物や名勝にアンカーが打ち込まれたことがニュースに取り上げられました。

このような行為は自然環境を破壊するだけでなく、文化財保護法違反という犯罪行為にもあたります。
実際、鬼岩にアンカーを打ち込んだ男性は発覚後警察に出頭しています。

岩場を乾かすためのバーナー使用

ごく稀にではありますが、雨などで湿った岩場表面を乾かすためにバーナーを使用する人がいます。
しかし少しでも手が滑ったりした場合、周辺植物などに引火し、最悪の場合山火事の発生源となるおそれがあります。
山火事が発生すれば景観を著しく損なうだけでなく、CO2発生による大気汚染の原因にもなります。

チョークやアンカーが環境に与える影響

アンカーに関しては、前述したように景観や文化的価値を損なうという問題が大きいですが、チョークに関してはそれに加え、岩壁に育まれている植物相も損なう可能性も示されています。

ある研究チームが行った実験では、クライミング用のチョークが岩壁に生えるシダやコケなどの発育と生存に悪影響を与えることが判明しています。
さらに、もし岩壁のチョークを拭き取ったとしても、一度付着した化学物質を全て除去することは難しいことも分かっています。
一度化学物質がついた岩壁は酸性度が変わってしまい、その後も植物相の生存に影響を及ぼし続けることになるそうです。

また、この問題によって懸念されているのは環境破壊だけではありません。
クライミングスポットには、氷河期に氷河によって長い年月をかけて別の場所から運ばれてきた「迷子石」と呼ばれる巨大な石も含まれています。
迷子石は、その場所の地質とは異なる性質を持っているため、調べることで氷河期や当時の植生に関する貴重な情報を得ることができます。

このように、地質学にとって非常に大きな意味を持つ迷子石にチョークが付着した場合、過去の地質について知る重要な機会を失ってしまうおそれがあるのです。
さらに近年では、主原料である炭酸マグネシウムを地中深くから大量に採掘するチョークの製造過程にも問題があるとの指摘が挙がっています。

クライミング用チョークが自然環境に与える影響についてはまだまだ分からない点が多いため、今後さらに研究や調査が進められていくと考えられています。

なるべく環境負荷をかけずにクライミングを楽しむためには

跡が残りにくいチョークを使う

ユタ州のアーチーズ国立公園が定めたように、クライミングを行う際は岩場の景観を崩さないよう、なるべくチョーク跡が残りにくい色のチョークを使うことをお勧めします。
もちろんクライミングが終わった後は、チョーク跡を必ずブラッシングして消すことも大切です。

とはいえ、前述したようにたとえ色付きのチョークを使ったとしても、景観は保たれても環境への被害を防ぐことにはなりません。
そのため、近年ではかつてのクライミングのように、チョークではなく花粉や樹脂などの自然素材を使う方法に戻るべきではないかとの意見も挙がっています。

「非公開エリア」には行かない

基本的に、岩場には「公開エリア」と「非公開エリア」があります。
公開エリアは、地権者の了承があってエリア情報を公開していますが、非公開エリアは地権者の意向として情報を公開していません。

現在公開されている岩場は、開拓したクライマーの努力と地権者の承認によって存続されています。
商業施設のクライミングジムやボルダリングジムと違って、ほとんどの公開エリアは無料で利用できるようになっています。
しかし無料だからと言って「使えて当たり前」と思うのではなく、「使わせていただいている」という意識を持ってクライミングを行うことが大切です。
そうすることで、自然と「岩場をできるだけ良い状態で存続しよう」という気持ちも湧いてくるはずです。

一方、非公開エリアは理由があって非公開となっているため、たとえ「未開拓の岩場を登りたい」と思ったとしても決して立ち入ってはいけません。
繰り返すようですが、その行為によって景観、自然環境、文化的価値が損なわれるおそれがあります。

また今は公開エリアであっても、クライマーのマナーが悪い場合は非公開エリアになってしまう可能性も十分あります。
大切なのは、自然環境とその場所の地権者に敬意を払い、クリーンなクライミングを心掛けることだと言えるでしょう。

まとめ

今回は、クライミングが自然景観や環境に与える影響について解説していきました。
険しい岩場を登って自分の限界に挑戦すること自体は悪いことではありませんが、だからと言って環境に負荷を与えていいというわけではありません。
マナーを守らなかった場合、「素晴らしい挑戦」は一転して「自己中な行為」となってしまいます。
マナーをしっかり守って環境に配慮しながらクライミングする人が、少しでも増えることを願うばかりですね。

参考URL:ナショジオスペシャル「クライミングのチョーク ブームの影で自然や景観壊す」(2021年12月3日)
参考URL:日本の山「クライマーとして守りたい外岩マナー」(2021年12月3日)
参考URL:産経新聞「天然記念物「鬼岩」のくさび撤去 フリークライミング用 岐阜・御嵩町」(2021年12月3日)

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