環境問題への「関心」が「不安」につながる?子どもや若者に多い「エコ不安症」とは

環境問題

以前、「ミレニアル世代/Z世代は環境意識が高い?その理由を徹底調査!」というコラムをアップしましたが、一方で深刻化し続ける気候変動をはじめとした環境問題を前に、無力感や絶望感に苛まれる子どもや若者も増えています。

2021年にインペリアル・カレッジ・ロンドンが10ヶ国の16~25歳を対象に行った調査によると、約45%の若者が「気候変動は日常生活や社会活動に悪影響を与えている」と感じていることが分かっています。
また、アメリカの精神医学会が2020年に行った世論調査では、回答者の半数以上が「気候変動に不安を感じる」と答えています。

このようなメンタルの不調には現在正式な分類は無いものの、専門家やメディアの間では「エコ不安症」、または「気候不安症」と呼ばれています。
これは子どもや若者に限った話ではないとはいえ、やはり環境問題に関するトピックが常に身近にある若年層ほどエコ不安症になりやすいことが分かっています。

今回は、エコ不安症になりやすいのはどんな人か、どうすればエコ不安症になるのを防げるのか、もしエコ不安症に陥った場合はどのようなケアが必要かなどについて解説していきます。

エコ不安症になるきっかけ

エコ不安症は、身近な場所で気象災害が発生した時や、気候変動に関する映像や文章を目にした時などに陥りやすいと言われています。

南極の氷が溶けていく様子を流すテレビ番組、気候変動対策の重要性を訴えるブログなどは、心が元気な時であれば「環境問題をもっと知りたい!」という気持ちの原動力となるかもしれません。
しかし、心が疲れている時にそういったものに触れると、「環境破壊を止めるために自分にできることなんてない…」などと悲観的になってしまい、大きな精神的ストレスを抱えてしまう場合があります。

前述したようにエコ不安症は現在正式な診断名ではないものの、一般的に見られる兆候としては、無気力感、無力感、罪悪感、ふさぎ込み、怒り、不眠、パニックなどが挙げられます。
近年では、アクセス数を稼ぐために必要以上に絶望感や不安感を煽るようなタイトルを冠している環境ネットニュースも多く、それがエコ不安症の一因となっているという指摘もあります。

なお、実際に気象災害を経験した人の中には、エコ不安症ではなくPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症する人も少なくありません。
アメリカのとある研究では、地球温暖化によって発生した4つのハリケーンで被災した1700人以上の子どものうち、約半数がPTSDの症状(フラッシュバックなど)を経験し、そのうち10%は症状が慢性化したことが分かっています。

このことから分かる通り、環境問題がメンタルヘルスに及ぼす影響力の大きさは、決して軽んじてはいけないのです。

エコ不安症になりやすい人とは

エコ不安症は、常日頃から環境問題に対する意識が高く、「今地球で起きていることについてちゃんと知りたい」と思っている人ほど陥りやすいことが分かっています。
ミレニアル世代やZ世代にエコ不安症が増えているのも、生まれた頃から環境問題が常に身近なトピックとして存在していたことが大きく関係していると考えられています。

エコ不安を抱くということは、それだけ地球への思いやりが深いということでもありますが、若いうちはこのような感情に上手く対処できないケースが多いと言われています。

エコ不安症が「子どもを持たない選択」のきっかけになることも

エコ不安症は、日常生活だけでなくライフプランにも影響を及ぼすことが分かっています。

近年では、主に先進国において「子どもを持たない選択」をする人々が増えています。
理由は人によってさまざまですが、その中でも「気候変動による未来への不安」を理由に掲げる人は多いと言われています。
特に若者世代の間では、この傾向が顕著になっています。

気候変動が進み、大気汚染、土壌汚染、海面上昇などが深刻化している今の状況では、「こんな不安だらけの世界で子供を産み、育てたくない」と思う若者が増えるのも無理はないでしょう。

「子どもを持つ選択」も「持たない選択」もそれぞれ尊重されるものであり、どちらを選んでも周囲がとやかく言うことではありません。
とはいえ、もし本心では「子どもを持ちたい」と思っていても、気候変動への不安によってそれを諦めてしまう人がいるとすれば、何ともやるせないものです。

エコ不安症に対処するには

「今」に目を向ける

気候変動が深刻化しているのは事実ですが、人類の生活が今すぐに脅かされるのかと言われれば決してそうではなく、現時点では長期的な見通しとなっています。
最悪のシナリオでも、気候変動が危機的な状況を迎えるのは20年先だと言われています。
だからと言って安心できるとは言えないものの、何らかの対処ができるだけの時間はまだまだあります。
「あと少しで地球は崩壊する!もう時間が無い!」といったような不安を覚えているとしたら、一度立ち止まってみましょう。

長期的なリスクに対して合理的な行動をとるのは問題ありませんが、不安に取りつかれてがんじがらめになっているのは生産的な状態とは言えません。
そうなってしまった時は、散歩をしたり、好きな映画やドラマを観たり、自分にとって落ち着くことをしたりして、今に集中することが大切です。

不安は「正常な感情」だと知る

そもそも、不安とは「安全が確保されていない不確かな状況」に直面した際に、自分の身を守るために生まれつき備わっている感情です。
気候変動をはじめとした環境問題は、未知なる脅威を非常に多く内包しているため、それに対して不安を抱くのは正常で健康的な反応だと言えます。

しかし、もし不安を抱いている時に「不安になるのは自分が弱いからだ」などと自分を責めてしまうと、不安が不安を呼び、結果的に感情のほとんどがマイナスな気持ちに支配される可能性があります。

たとえ環境問題について不安を感じたとしても、決して悲観的になり過ぎず、「これは当然の感情なんだよね」となるべく冷静に自分の中の不安と向き合うことが大切です。

「不安以外の感情」も知る

環境問題について考えると恐怖や悲しみを抱いてしまいがちですが、エコ不安症は本来、この世界への深い思いやりから生まれているものです。
エコ不安症を克服するためには、自分の中にある不安以外の感情を自分で知ることが大切です。

お勧めは、「なぜ自分は環境問題に不安を抱いているのか」をノートに書き出してみることです。
思いのままに書き出してみると頭の中が整理され、やがて不安の底には「地球を守りたい」「子供たちが幸せに生きられる未来をつくりたい」といった、愛情や希望に溢れた感情があることに気付けるはずです。

環境問題に対する「自分なりの価値観」を持つ

前述したノートに書きだす方法で自分の中の環境問題に対する思いに気付いたら、次は環境問題に対する自分なりの価値観を持つことが大切です。
「自分はこうして自然と関わる」「自分はこの方法で環境に配慮する」といった確固たる指針を構築することで不安を抑制しやすくなり、個人的な成長にもつながると言われています。

辛くなった時は誰かに不安を「打ち明ける」

エコ不安症に限った話ではありませんが、もし自分一人では抱えきれないほど不安が大きくなった場合は、身近な人やカウンセリングの専門家に自分の思いを打ち明けることをお勧めします。

不安や怒りなどのマイナスな感情は、口に出すことでその苦痛が緩和され、安心感を得られると言われています。
また、一歩引いた視点から物事を捉えられるようになり、問題解決の糸口を見つけやすくなるという効果もあります。

エコ不安を持つ子どもや若者の為に周囲の大人ができること

環境問題について悩んでいる子どもや若者を診察している英国王立精神科医学会(RC Psych)は、子どもや若者がエコ不安症に陥ってしまった場合に周囲の大人(親や保護者など)がすべき対応について紹介しています。
その内容は、以下の通りです。

・子どもや若者の話に真剣に耳を傾ける
・子どもや若者に、「その不安は思いやりのある人として抱く自然な感情だよ」と伝える
・家族で環境保護に取り組んだり、自然に触れたりする時間を設ける


このように周囲の大人が真摯に対応することは、自発的に環境配慮行動をとる子どもや若者の育成にもつながると言われています。

まとめ

地球環境に対する思いやりや関心を持つことはとても大切なことですが、それが原因で大きなストレスを抱えてしてしまうのは、できるだけ避けたいものですね。 もし「自分(または自分の子ども)はエコ不安症かも」と思った場合は、一度環境問題に関するトピックから距離を取り、今回紹介した対処法を実践してみて下さい。
どうしても強い不安感が拭えない場合は、専門機関に相談することも大切です。

参考URL:若者の「エコ不安」とは。地球の未来への不安を和らげるために、私たちができること
参考URL:「気候変動に絶望」 エコ不安症、どうすれば?
参考URL:将来が不安で子どもを持てない…「気候不安症」を抱える人々の声

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